転職は、キャリアを前に進める手段として語られることが多い。
環境を変える、年収を上げる、やりたい仕事に近づく。
今の場所に違和感があるなら、動くのが自然だ、という整理も一般的だ。
実際、選択肢としての転職は以前より身近になっている。
情報も多く、成功例も語られる。
「迷っているなら一度外に出てみればいい」
そう言われる場面も少なくない。
一方で、30代半ばあたりになると、
転職という言葉が、頭には浮かぶのに、
判断のテーブルにきちんと乗ってこない人がいる。
拒んでいるわけでも、恐れているわけでもない。
ただ、話が途中で止まる感覚が残る。
転職を考えているはずなのに、決まらない感覚
それは、あとから理由を整理しようとすると難しい状態でもある。
今の仕事が嫌なわけでもない。
かといって、満足しているとも言い切れない。
不満はある。
けれど、それが「辞める理由」になるほど強くもない。
条件を見れば、悪くない。
人間関係も、致命的ではない。
転職サイトを開くことはできる。
求人を見ることもできる。
ただ、その先で指が止まる。
「ここを出る理由」と
「次を選ぶ理由」が、
同時に立ち上がってこない。
転職を考えていないわけではない。
考えている“はず”なのに、
判断の芯がどこにも見つからない。
その宙に浮いた感じだけが残る。
転職という選択肢が、重くも軽くも感じられるとき
転職が進まない背景には、
いくつかの感覚が重なっていることがある。
たとえば、
今の仕事で身についたものが、
次の場所でどう扱われるのかが見えにくいとき。
評価されるかどうか以前に、
「説明する量」が増えそうな気がする。
あるいは、
生活全体のバランスが、
以前ほど単純ではなくなっている場合もある。
収入、時間、体力、周囲との関係。
どれか一つを動かすと、
他も一緒に動いてしまう感覚。
また、
「転職すれば解決する」という語りに、
そのまま乗れなくなっていることもある。
問題がはっきりしていない状態で動くことに、
少し慎重になっている。
どれも決定的な理由ではない。
ただ、それらが重なると、
転職は前進でも後退でもない、
少し扱いにくい選択肢になる。
それでも、今の場所に固執しているわけではない
だからといって、
「今の会社に残る」と決めているわけでもない。
選択を先延ばしにしている自覚も、
どこかにはある。
ただ、
無理に動かないという選択が、
そのまま続いているだけかもしれない。
積極的に守っているわけでも、
諦めているわけでもない。
転職をしないことが、
安定志向だとも言い切れない。
動かない理由を、
言葉にしきれていないだけの状態。
決めていない時間が、
そのまま積み重なっている。
それを問題として扱うかどうかも、
まだ決まっていない。
転職が進まないのは、
勇気が足りないからとは限らない。
判断を支えていた前提が、
静かに揃わなくなっているだけの可能性もある。
動かなかった時間にも、
留まっていた理由にも、
その人なりの文脈は残っている。
状況は、そのまま置かれたままでもいい。

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